【JENESYS2.0】日本教員訪韓研修団第2団(2014.11.17~11.27)

JENESYS2.0の一環として、日本の若手教員19名が訪韓し、11月18日から11月27日までの9泊10日の日程で研修を行いました(団長:遠藤大輔 沖縄県那覇市立神原中学校教諭)。[@pause]一行は滞在中、学校訪問やホームステイ、地方での文化体験等を通して、韓国の文化や社会についての知識を深めることができ、これらを通じ日韓の相互理解と信頼関係の増進につながる研修となりました。(主催団体:公益財団法人 日韓文化交流基金、大韓民国教育部国立国際教育院)

※「JENESYS2.0」の概要についてはこちらをご覧ください。

<日程>
11月17日(月)
研修前オリエンテーション
11月18日(火)
金浦空港より入国、韓国国立中央博物館見学、セウォル号犠牲者合同焼香所訪問
11月19日(水)
ソウル市内視察(景福宮・宗廟など)、韓国国立国際教育院訪問、大学路見学
11月20日(木)
京畿道高陽市上炭初等学校、京畿道富川市深遠高等学校訪問
11月21日(金)
ソウル市天旺中学校訪問、全羅南道木浦市へ移動、ホームステイ対面式
11月22日(土)
終日ホームステイ
11月23日(日)
ホームステイから再集合、木浦共生園訪問、儒達山一帯を車窓から見学(旧日本領事館経由)、文化体験(プク(太鼓)叩き)、務安生態干潟博物館見学
11月24日(月)
木浦大学校訪問(韓国伝統料理作り体験、木浦大学生との交流、特別講演、キャンパスツアーなど)
11月25日(火)
慶尚北道慶州市へ移動、新羅文化遺跡視察(韓国国立慶州博物館・仏国寺・瞻星台)
11月26日(水)
釜山広域市へ移動、文化体験(韓服試着)と釜山近代歴史館見学、感想報告会
11月27日(木)
金海空港より出国

 
 寒波により日本全国各地でこの秋一番の冷え込みと言われた11月17日、北海道から沖縄に至るまで、日本全国から19名の教員が「日本教員訪韓研修」のために、東京・虎ノ門にある日韓文化交流基金会議室に集結しました。翌日から始まる10日間の訪韓研修の事前オリエンテーションのためです。19名中14名が初韓国。期待と不安、そして初めて出会う顔ばかりという緊張感の中、各自本研修への意気込みを語りながら自己紹介をし、研修の幕が上がりました。

 翌18日の早朝、研修団は羽田空港から金浦空港へ旅立ちました。韓国はソウルから釜山まで晩秋とは言え、紅葉が一番きれいな時期と重なり、日程を通じて韓国の秋を満喫することもできました。ソウルについてから最初の訪問地は、韓国国立中央博物館です。古代からの朝鮮半島の歴史や文化、遺物などを網羅している博物館を通じて、日本とのかかわりも深いことを感じた先生方も多かったようです。同じ敷地内には徒歩5分位で行ける、今年の10月に「ハングルの日」を記念してオープンしたばかりの国立ハングル博物館もあり、韓国語に興味ある先生はこちらの方ものぞかれたようです。
 
 続いて訪れたのは、セウォル号犠牲者合同焼香所です。「教育に携わる者として、是非黙祷を捧げたかった」という先生もいらっしゃる中、全員一輪ずつ白い菊の花を捧げて黙祷しました。周囲にある数多くの結ばれた黄色いリボンに寄せられた思いを実際に目で確認しながら、それぞれ4月に韓国で何が起きたかを改めて再確認することができ、その悲しみと思いを共有することができました。短い時間ではありましたが、研修のスタートに気を引き締めるきっかけにもなりました。また、合同焼香所の場所が、日韓併合時代の建物でもある旧ソウル市庁舎の前であり、ワールドカップの応援で赤いシャツを着た多くのサポーターが集合したり、狂牛病にまつわる反米デモでろうそくを持った市民らが大勢集ったりした会場でもある等、付帯する様々な情報も合わせて知ることができました。

 この日は他にも、空港から市街地へ向かう途中、車窓から南山、ソウルNタワー、63ビル、国会議事堂、旧ソウル駅舎、南大門、光化門、清渓川等を見学することができました。

 研修2日目となる11月19日(水)は、まず本研修の韓国側主催団体である韓国国立国際教育院を訪問しました。歓迎式の場で、イェ・ヘラン国際交流チーム長から、歓迎の言葉と共に「教員の皆さんの役割は、今後の両国の未来を担う若い生徒の皆さんを指導するという点において、非常に大きな影響を及ぼす。是非とも韓国の肯定的なイメージを体感していただくと共に、両国の心の距離を縮めるためにご貢献いただきたい」とメッセージを送られ、本研修団の団長からも今回の研修開催への感謝の気持ちと共に、「学校現場を通じて日韓の共通点や違いをしっかり学び、帰国して生徒をはじめ周囲の皆さんに伝えていきたい」と答辞をしました。

 その後、国立国際教育院の周辺は「大学路」という、若者文化発祥のアートな街ということで街並みを見学し、朝鮮王朝時代の歴代王と王妃の位牌を祀った、世界文化遺産にも登録されている「宗廟」、朝鮮王朝時代を代表する王宮「景福宮」を見学しました。バスでの移動中、バスの運転手さんの粋な計らいで韓国大統領府である「青瓦台」も車窓から見学することができました。

 研修3日目となる11月20日(木)は、団員が最も楽しみしていた教育現場視察のうち、韓国の初等学校(小学校)と高校を訪問しました。この日、午前に訪問したのは、ソウルのベッドタウン京畿道高陽市にある上炭初等学校です。兵庫県をはじめ日本滞在9年以上というソン・ビョンイル校長は流暢な日本語で、「日本人の親切・誠実・勤勉な姿勢に大きな感動を覚えた。両国は切っても切れない重要なパートナーだからこそ、私たち教育者が未来へ向かって良い取り組みをしていかなくては。」と歓迎の言葉を熱く語られました。その後、合唱サークルに所属している子供たちによる歓迎の歌の披露、日本語によるパワーポイントで学校概要説明が行われ、続いて3つのグループに分かれて懇談会が行われました。懇談会では、校内暴力・いじめ・登校拒否・受験戦争・自殺等、多岐にわたる日韓両国の共通問題について意見交換ができたようです。
質疑応答では、「革新学校」に指定された同校の独特な取り組みについて多く寄せられました(1日80分×3コマの授業、80分内に複数の科目の要素を盛り込んだ授業を実施、カラオケルームや漫画ルームもあり、授業の中にウクレレやギターの演奏まで取り入れる、じっと座ったままではない、どんな科目でも動きを取り入れる活動中心の授業、豊富なクラブ活動など)。また、同校は現在の熾烈な競争社会に警鐘を鳴らし、まずは学校現場から変えなくてはという理想に基づき、受験戦争に勝ち抜くような人材ではなく、楽しく伸び伸びとした環境の中で、人格形成をだいじにした教育を目指していると紹介され、多くの団員の先生方の関心を誘いました。また、同校で給食体験もさせていただき、研修団一行は次の訪問校へと移動します。

 午後に訪問したのは、同じくソウルのベッドタウンである京畿道富川市の深遠高等学校です。「おいでやす」と京都弁で第一声を発したイ・ヨンジェ校長先生は、「両国の関係が悪いと言っても長き交流からすれば些細なこと。すぐに元通りになると思っているが、そのためには、教育現場にいる私たちが政治や外交の思惑に左右されず、生徒の皆さんに交流の必要性と重要性をしっかり指導しなくては。私は日本が大好きだ。だからこそ、日本の良いところばかり自分の学校の生徒に伝えたい。悪いことばかりほじくっていればきりがないし発展的ではない」と日本語で熱く語り、多くの団員を感動させました。
進行役は同校の日本語教師が日本語で始終務め、日本語のパワーポイント資料による概要も日本語で説明、施設見学の際には、同校の日本語を学ぶ生徒が10名程案内で訪れ、団員の先生方と良い交流の場となりました。懇談会には、同校の多くの先生方と団員とが1つの場所で多いに意見を交わしました。部活の違い、体育の授業が韓国はなぜ少ないか、英語教育の違い、保護者と学校の関わり方、学力のレベル差の調整の仕方、クラス分けの方法に至るまで、共に教育現場の厳しさや課題について語り合い、多くの団員の先生方が、韓国側の先生方が何の見栄を張ることもなく、率直に韓国の教育現場の問題や苦悩について(例えば、予算不足、保護者の声に教育行政が揺さぶられ学校現場も振り回される、政治闘争保守対進歩が教育現場にまで影響している等)語ってくださったことから、その分質疑応答も日本側から活発に行われ、団員の余りにも熱心な質疑応答に予定を30分以上も越えてしまいましたが、始終誠意を持って応対していただいた校長をはじめとする同校の先生方にどの団員も感謝と共に大いに感動をしていた様子でした。午前訪問した学校が余りにも先進的で現実離れしていましたが、同校は校長自ら「平均的な韓国の高校」と語っていたように、その分団員にとっては大変身近に感じ、大いに参考になったようです。

 研修4日目となる11月21日(金)の午前中は引き続き学校訪問です。ソウル市九老区の再開発地域にできたばかりの天旺中学校を訪問しました。同校の校長もやはり大阪韓国教育院長として3年間大阪滞在歴があり、歓迎のご挨拶を流暢な日本語でしていただきました。この日もやはり日本語講師が始終進行を務め、前日の2校同様に日本語で制作されたパワーポイントの資料で学校概要を説明していただき、質疑応答の時間では同校の特色や前日にし切れなかった質問(遅刻したら罰金を徴収する制度、PTAの役割の差等)を積極的に行い、その後に施設見学と給食体験を行いました。
前日の2校のもてなしと誠意ある対応でだいぶお腹いっぱいになっていた様子の団員たちでしたが、この日もまるで大学のように授業ごとに教室が異なるシステムや、「先進型教科教室」に指定され、できたばかりの新しい学校ならではの最新の設備がそろった各施設に驚いており、3校全てが異なる性格と雰囲気を持っているということから、いずれも好評を博しました。

 同日午後からは、ソウルを離れ地方の魅力を知るために、まずは木浦へと向かいました。ソウルから高速を使ってバスで約4時間半。木浦大学で待っていたのは、この後2泊3日でお世話になるホームステイ先のホストファミリーたちでした。ホームステイでは、お餅作りを体験したり、王仁博士(日本へ千文字を伝えとされる)記念館、金大中記念館、F1会場へ行ったり、朝から登山を楽しんだりと、木浦を中心とする周辺都市まで活動範囲を広げ、各自ホストファミリーと楽しいひとときを過ごしたようです。アンケート等でも、最も印象に残った体験として学校訪問と共にホームステイをあげる団員がほとんどで、多くの団員が韓国理解に役立ったと異口同音に語っていました。

 研修6日目11月23日(日)の朝、研修団一行はホームステイを終え、日程もいよいよ後半へと移ります。この日は、午前中に木浦と日本の結びつきを強く感じさせる、田内千鶴子さんのお孫さんが園長を務める木浦共生園を訪問し、その後、旧日本人街に近い儒達山一帯を車窓から見学(旧日本領事館経由)、午後は韓国文化体験として「プク(太鼓)叩き」を行い、務安生態干潟博物館を見学して一日を終えました。

研修7日目となる11月24日(月)は、一日中、本研修の運営企画をしてくださった木浦大学で過ごしました。午前中は、木浦大学食品栄養学科朴福姫教授による韓国料理教室。4つのグループに分かれてビビンバ、プルコギ、浅漬けキムチ、小豆のおかゆを作り、事前に朴教授等が作っておいてくれていたソンピョン(秋夕時に食すお餅)とたらのスープと共に、ランチとして食べました。殆どの具材が下拵えをしてあったため、団員は具材を炒めたり、混ぜたり、和えたりする程度で手軽に韓国料理を作れた気分にもなり、大変好評でした。

午後一番には、木浦大学側からの公式歓迎式が行われました。本年度から就任されたばかりのチェ・イル総長は、団員を歓迎すると共に「この地域は三国時代の頃から日本と活発に交流して来たこともあり、その長き交流からすれば最近の政治的摩擦は一時的なことに過ぎない。是非とも若き生徒を指導していく立場の皆さんには、本研修で韓国文化をはじめ様々な体験をしていただき、帰国後に韓国について幅広く紹介しながら、両国交流を促進する立場としてご活躍いただきたい」とメッセージをくださいました。

 続いて、木浦大学の学生との交流が行われました。交換留学で同校に留学している日本人学生4名と日語日文学科と英語英文学科の学生を中心に21名集まり、3つのグループに分かれて40分間、「互いに気になる点、両国の文化的差異について」をテーマに討論しました。団員からは「大学入試時のストレス」、「韓国で体育や芸術系の授業がなぜ軽視されるか」、「韓国の若者の恋愛事情」、「食生活」などの話題を、韓国の学生からは「‘すみません’の使用実例」、「就職や進学状況について」、「日本の観光名所のお勧めスポット」などの話題が寄せられました。団員からは「両国共に似たような悩みを持っている」、「韓国の学生の方が将来の目標やヴィジョンをしっかりと持っている」などの意見が寄せられ、短かったものの有意義な時間となったようです。中でも、あるグループでは、団員から「日本について、どう思っているか率直な意見を聞きたい」と韓国側の学生に語りかけ、韓国の学生も率直に応じ、日韓で外交問題となっている機敏な話題について一般の韓国人の感覚や考え方を知ることができたようです。

 その後に行われた特別講義では、ホ・ソク大学院長(日語日文学科教授)より「韓国と日本-‘戦後’を見る二つの眼差し」と題し、自らの体験を交えながら、過去韓国では日本に対しどのように思っていたかを紹介しながら、「金大中大統領の日本大衆文化開放により、両国においてようやく‘戦後’が始まったのであって、今なおも日本の‘戦後’は終わっていない」と指摘。「私たちは共に、両国の友好親善関係の維持と拡大の未来を担っていく若い人々を教えるという立場にいる。日本が本当の意味での‘戦後’を目指すためには、自国の実態を良く知った上で、それに相応しい外交や行動をすべきで、そうしてこそ世界中から日本が認められる。ドイツは今やどの国からも文句を言われない。日本に何故それができないのか。日本は‘戦後’問題の解決のためにもっと謙虚で前向きに考える必要がある。その上で、教師として、両国の平和親善友好関係を望んでいる、この場に参加した我々には、次世代を望ましい方向へ導く役割がある」と、率直な思いを優しく丁寧な口調で語ってくださいました。

 特別講演後は、木浦大学の地域の発掘物を展示した博物館を見学し、この日の日程を終えました。ソウルから始まった本研修で、これまで出会った多くの韓国人は、日韓関係の悪化を感じさせないほどみな親切で、本当に関係が悪いのかと多くの団員が異口同音に話していましたが、木浦大学での一連のプログラムを通じて、根底に流れる韓国人の日本観や歴史認識及び領土問題等への考え方等を肌で感じたようでした。

研修8日目の11月25日(火)は、「屋根のない博物館」と言われる新羅時代の首都であった慶州を訪れ、新羅時代の文化遺跡視察(韓国国立慶州博物館・仏国寺・瞻星台)を行い、翌11月26日(水)は韓国第2の都市・釜山へ移動し、午前は韓服試着体験を行い、午後は日本統治時代の釜山の様子がよくわかる釜山近代歴史館を訪問しました。特に釜山近代歴史館では、木浦大学で見聞きした内容との相乗効果も起こり、多くの団員が「韓国について今後も学んでいきたい」と力強く語ってくださいました。

そして、最終日の11月27日(木)は釜山の金海国際空港から成田空港へ帰国し、今回の研修での体験や得たことを、学校現場で伝えていきたいと決意を新たにしながら、それぞれ北海道から沖縄まで、日本全国へと戻っていきました。団員の皆さん、本当にお疲れ様でした。

 研修最終日前夜に、研修の振り返りとまとめということで、団員全員が感想を語りましたが、その主な内奥をこの場で紹介させていただきます。
・自分がいかに韓国を知らなかったか痛感した。無知が一番恐ろしく恥ずかしい。或いは知らないふりをしているのかもしれない。もっと韓国の歴史や日韓関係について勉強したい。
・韓流以外の韓国を知らなかったが、今回の研修で生の韓国人に触れて、生の声を聴けて、韓国が本当の意味で身近に感じることができた。
・今回の研修は普通の旅行では体験できないことばかりで本当に素晴らしい経験となった。
・外国から見た日本というものを始めて意識することができた。韓国を見て、日本の長所と短所に改めて気付いた。
・各学校訪問が一番印象的。帰国して生徒たちに韓国のことを伝えたい。
・食べ物も刺激的なものが多かったが、それ以上に全ての体験や経験が刺激的だった。
・釜山近代歴史館や特別講義の内容に心を打たれた。悲しい出来事や反日感情を抱えながらも、出会った韓国の人々はみな好意的で友好的で、日本との交流に熱意を持った人ばかり。本当に韓国は素晴らしい国だと思った。
・いかにマスコミ報道を鵜呑みにしてはいけないか身をもって体験した。今後は自ら体験した経験に基づいて、堂々と生徒にも韓国の良さをたくさん伝えていきたい。
・人間力溢れる素晴らしいスタッフと素晴らしいメンバーで訪韓できて嬉しかった。同じことを体験しても、いろんな見方や考え方があるし、それらを共有できたことで知識も広がった。真実を知って苦しいこともあったが、日韓関係において私たちが何をすべきか、何ができるのか、よく考えて少しでも子供たちに伝えていきたい。
・これを機に韓国語を学んで、もっと直接韓国の方やホストファミリーと語り合いたい。
・日本も韓国も子供は一緒。両国関係が微妙でも人と人との交流が一番だいじだってことを生徒に伝えていきたい。
・こんなに素晴らしい研修の機会を与えていただき、食い逃げするようなことはできない。帰国してこの体験をどう活かすかよく考え、必ず成長して、このご恩に報いたい。
・韓国の学校の先生方の熱意に驚いた。また、随所で片言だけでも日本語を使おうとする方々が多く、相手の国の言葉で伝えようとする姿勢のだいじさを感じた。
・今後は天気予報で朝鮮半島や日本の全国の地図を見ると、今回の研修で出会った方々の顔を思い浮かべることになるだろう。それぐらい、魅力ある国や人と出会えたことに感謝したい。
・正直、韓国についてはあまりいい感情を持っていなかったが、この研修で180度変わった。その国を経験もせず批判することは愚かなことだと悟った。