「日韓交流 若者へのメッセージ」第1回 大澤文護さん

日韓関係の「リスクマネージメント」のために

千葉科学大学危機管理学部教授(元毎日新聞ソウル支局長)

大澤文護


 新型コロナウイルス感染症の拡大により、「危機管理」という言葉が東日本大震災の時に続いて再び注目を集めている。大学の危機管理学部に所属する私は、その意味を正確に理解している人は果たしてどのくらいいるのだろうかと気にしてきた。
 「危機管理学」の本場・欧米の研究では「危機管理」を「クライシス(危機、Crisis)&リスク(Risk)マネージメント」と表現することが多い。「クライシスマネージメント」は災害や感染症、紛争等で実際に問題が発生した時、その負の影響を最小限に抑えるとともに、負の状態からの逸(いち)早い回復を図ることを目的とする。それに対し「リスクマネージメント」は、想定される問題が起こらないよう防止策を検討し、事前に実行することを意味する。災害や感染症、そして紛争から命を守るには、問題や被害が発生してからの「クライシスマネージメント」より、それをゼロに抑え込むことを目的とする「リスクマネージメント」の方が大事な場合が多いことは理解していただけるだろう。
 日韓関係は昨今、「戦後最悪」といわれる状態に陥っている。その主要因となった「従軍慰安婦問題」「徴用工問題」は私が新聞社のソウル特派員だった1990年代以前から両国間の懸案だった。外交専門家が日韓関係の「クライシスマネージメント」に知恵を絞ったにも関わらず、解決できない問題として残ってしまった状態にあるといえよう。
 大きな外交問題を前にすると民間の国際交流は無力に思えることがある。「若者がいくら行き来しても、問題は解決しないじゃないか」との声を聴くことは珍しくない。新型コロナで自由な行き来が出来ない今はなおさらだろう。
 日韓関係の危機状況に対処する「クライシスマネージメント」は重要だ。しかし、その大部分は外交や政治の専門家の手に委ねるしかない。一方、民間交流を続ける私たちは、両国関係が今以上に悪化し、将来、新たな問題を引き起さないための「リスクマネージメント」に、より強い関心を向けるべきではないだろうか。
 何も難しいことをしようというのではない。「リスクマネージメント」の第一歩は「信頼関係構築」と「正しい情報の入手」にある。新型コロナで直接会えなくても、SNSでもメールでも良いから、信頼できる韓国の友人をひとり一人が作ればよい。そして「互いの国で何が起きているのか」「互いをどう思っているのか」について率直に意見交換してほしい。誤解や思い込みで行動すれば、リスクは新たなクライシスとなって私たちに襲い掛かる。反対にリスクが消えれば専門家は安心して既存のクライシス解決に取り組むことができるはずだ。「どうせ私たちに出来ることはない」。そんな諦めが、両国関係を本当の混乱に導いてしまうことを私は恐れる。
 どんな方法でも良い。友達を作ろう。そして話をしよう。それが日韓関係全体の「リスクマネージメント」につながることを信じて。(了)

大澤文護(おおさわ ぶんご)
 元・毎日新聞ソウル支局長。現在は千葉科学大学危機管理学部教授、天理大学客員教授。著書に「北朝鮮の本当の姿がわかる本」(1994年・こう書房)、「金正恩体制形成と国際危機管理」(2017年、唯学書房)、共訳書に「砂漠の戦場にもバラは咲く」(2003年・毎日新聞社)などがある。