【日韓若者からのメッセージ】 理事長 小野正昭

「新型コロナにも負けず交流する日韓の若者たち」

日韓文化交流基金理事長 小野正昭

 「日韓関係は戦後最悪」昨年はこんな見出しが一面を躍った。政治・外交の領域を超えて文化や経済、さらに安全保障の領域までギクシャクした。地方自治体間の交流が一部中止され、訪日観光客数が激減した。また対韓輸出管理強化に反発し、日本製品不買運動が生じた。さらに深刻なことに軍事情報包括保護協定(GSOMIA)延長問題など安全保障面まで影響が出始めた。そんな中、日韓文化交流基金は、青少年交流計画(JENESYS)を着実に実施、実を上げてきたところであった。ところが、昨年末、武漢に端を発した新型コロナウイルスが一気に拡大、3月11日のWHOによるパンデミック宣言などにより、突然、日韓間の若者の交流は中断を余儀なくされた。誠に残念である。というのも、昨年は最悪の日韓関係といわれながらも若者の交流の面では希望の光が見え始めたところだったからだ。昨年は日韓の若者が、悪化する日韓関係の現状を憂い、何が問題かを自分の目で確かめ、真剣に議論し、改善策を模索し始めたからだ。

1.行動し始めた若い世代

 最近の両国の若者は、マスコミの報道と現実のギャップを自らの目で確認したいと交流に積極的に参加する。以下は昨年の交流プログラムに参加した学生の感想文の一例である。

●東北地方の被災地を訪問した韓国大学生(7月):
 「教わった知識やマスコミの情報と現実は大きく違った。だからこそ文化交流が大事だという意見が多いが、個人的には限界があると思っている。なぜかと言えば、韓国の教育には絶対的な反日思想が含まれているし、マスコミの反日報道もひどいからである。このような中でどうすれば改善できようか。」
 「謝罪した後の靖国参拝は残念だ。歴史認識の違いになるとヒートアップした。日韓の学生で共通の歴史教科書を作るのも改善策ではないか。」
 「外務省で配布された日韓基本条約の原本のコピー版を見ながら日本の立場を直に聞いていると、日本の立場もそれなりに理解することができた。」

●高校生キャンプに参加した日比谷高校一年生(8月ソウル):
 「韓国人の高校生と日韓関係について議論した。難しい話題を日本語で表現することが出来る彼を本当に尊敬する。彼は文在寅政権の政策には賛否両論あり、決して国民の総意ではないと言った。彼とは、両国政府は対抗措置の応酬を止めるべきという点で一致した。一方、歴史問題では大きな溝があった。そもそも教科書で教えていることがまるで異なり、これをベースに話してもお互いまったく通じないのだ。おそらく徴用工にせよ、竹島にせよ両国民が感情的になるのはこうしたことからだろう。彼と出合い、ものすごく刺激を受けた。自己研鑚を重ねなければならない。日本の人口は減少し、GDPもいずれ韓国に抜かれるのではないか。韓国が友好国でもあり良きライバルでもある時代に早くなってほしい。」

●「韓国の若者と話そう」で日本の一般市民と交流した韓国女子大生(9月日比谷公園):
 「高齢者の方と歴史観や教育につき述べ合う機会を持てたことが一番印象に残った。最悪の日韓関係と言われるが、むしろこの危機の時にこそお互いを見つめ合い、偏見や溝を無くす好機だ。日本では反韓感情のむき出しや「ボイコットコリア」もなく韓国文化を楽しんでいる。私たちは本当に自ら好んで「日本製不買運動や日本旅行ボイコット」をしているのだろうか?他人の視線が気になるからと言って、個人の言動が制限されているように感じるのならそれは違うのではないか、と自ら声を上げていきたい。」
 以上、交流の現場には現状に憂い真剣に改善策を探ろうとする日韓の若者の姿がある。

2.新型コロナに負けずに交流する日韓の若者

 一年半前、日韓文化交流基金主催の大学生訪韓団に参加した日本の大学生のグループが「この交流を一度で終わらせたくない、後輩を育てたい。」と「日韓アルムナイの会」を発足させたことは注目に値する。これに呼応するように昨年8月に東北の被災地を訪問した韓国の大学生グループが「韓日アルムナイの会」を発足させ、すでに両アルムナイの会の間で交流が始まっている。
 特筆すべきは、5月現在一切の交流が中断した中で、両国の学生(一部社会人)によるSkype交流が4月20日から開始されたことである。午前と午後に分けて日韓双方から延べ100人以上が参加し、日韓の若者がPCの画面を通し和気藹々で自由闊達に交流(日本語・韓国語・英語、時に基金職員の通訳を交え)した。話題は、新型コロナへの対応・学生生活への影響、日韓関係改善策、学生の政治参加、就職、恋愛などだ。(Skype交流は始まったばかりだが今後随時読者に紹介したい)
 現在の日韓の若者同士は仲が良い。若者が交流する機会が増えれば両国の信頼関係は大いに増進される。いずれ交流が再開されれば、相互の学校訪問やホームステイを通じて相手と直に話し、生活し、肌で感じることが友好への最短距離である。日韓の若者が近い将来、日韓新時代を形成する原動力となることを切に願っている。

(令和2年5月6日記)