「日韓交流 若者へのメッセージ」第6回 稲川右樹さん

「好き」も「嫌い」も自分で決めよう

帝塚山学院大学准教授 稲川右樹


「韓国が好きですか?」

 このように聞かれたとき、あなたは何と答えますか?日本の若者の間で韓国に対する関心が高まるにつれ、「韓国好き」を自称する声をよく見聞きするようになりました。私が韓国語を勉強し始めた20年前は、日本の若者の韓国に対する意見は「好き」でも「嫌い」でもなく「無関心」が圧倒的でしたので、世の中の変わりようには本当に驚かされます。

 さて私は2001年から2018年までの期間を韓国で過ごしました。人生の約半分弱、20代と30代のほとんどは韓国にいたことになります。こういう話をすると「よほど韓国が好きなんですね!」と言われることが多いのですが、そのたびに答えに困ってしまいます。私にとって韓国は「好き」とか「嫌い」で単純に割り切れない存在だからです。もちろん、韓国で生活をしていると(日本と比べた時に)「素敵だな」という部分がたくさんあります。しかし同時に「これはなんとかならないものか」という部分も山ほどあります。その度に私の感情は「好き」と「嫌い」を激しく行ったり来たりすることになります。日韓の間の諸問題についても「これは日本に理があると思うけど、あれは韓国の方が筋が通ってるのではないか」と思いますし、「キムさんは好きだけど、パクさんは苦手」という状態になります。その上でトータルしてみると「愛着と居心地の良さを感じることが多い」というモヤモヤッとした答えに行き着きます。そしてこのモヤモヤは韓国に長く深く関わるほどに強くなっていく気がします。

 これから韓国に関わっていく皆さんの中にはひょっとしたら「韓国のことが好きでなくてはいけない」という気持ちを持っている人がいるかもしれませんが、私は必ずしもそう思いません。ただ「好き」にせよ「嫌い」にせよ、それが自分で直接見聞きし体験し自分の頭で考えた上での結論であることが大切です。現在メディアやSNS上では韓国について様々な情報が溢れています。しかし、どんな情報にせよ、それらには必ず誰かが何らかの意図を持ってかけたフィルターが存在することを忘れずにいて欲しいと思います。

 宮崎駿の「もののけ姫」の中で、主人公のアシタカが言うセリフの中に「曇りなき眼で見定め、決める」というものがあります。私がとても好きなセリフです。自分が誰かの言葉に惑わされそうになるといつもこの言葉を思い起こします。これから韓国に関わっていく皆さん、ぜひ自分が見聞きしたことを、曇りなき眼で見定め、そして決めて、自分なりの韓国との付き合い方の道を見出していって欲しいと思います。

いながわ ゆうき
帝塚山学院大学准教授。専門は韓国語教育。2001〜2018年まで韓国・ソウル在住。ソウル大学韓国語教育科博士課程単位満了中退(韓国語教育専攻)。ソウル大学言語教育院、弘益大学などで日本語教育に従事。K-BOOK振興会アドバイザー。著書に『ネイティブっぽい韓国語の表現200』『ネイティブっぽい韓国語の発音』(いずれも出版社HANA)。Twitterアカウント:@yuki7979seoul