「日韓交流 若者へのメッセージ」第11回 阪堂千津子さん

「他人と違うことにチャレンジしてみよう!」

ハンガンネット(韓国語講師ネットワーク) 世話人代表

阪堂千津子

brank

 韓国の笑い話で、次のようなものがあります。王様(たぶん恐妻家)が家臣たちに命じました。「このなかで妻が恐いと思うものはこちらへ、恐くないと思う者はあちらへ並べ」。ほとんどの家臣たちが「妻はおそろしい」ほうに並ぶ中で、ひとりだけ、反対側に立つ家臣がいました。いたく感動した王様が、褒美を授けながらその理由を尋ねると、「常に妻から『皆の集まる場所に行ってはダメ』と言われていた」からだったそうな・・・・。

 結局のところ、この家臣が最も恐妻家だった、というオチなのですが、韓国にある数多くの「恐妻家話」の中から私がこれを選んだ意図は、決して皆さんに「妻を恐れよ/夫を尻に敷け」ということではありません。妻の命令はともかくとして、他人とは違う道でも、自分の信じる道を、ためらわずに進んでほしいとお伝えしたいのです。
 
 私がかつて銀行員だった時代、世の中の風潮として、外国留学と言えば圧倒的に欧米、中でもアメリカでした。私の同期は続々と退職して、英語圏に留学していきました。しかし私は生まれつきのアマノジャクでもあり、また学生時代から付き合いの多かった韓国人の魅力にも惹かれ、26歳で韓国への留学を決意し退職することになりました。両親はもちろん反対し、社内でも最後まで納得してはもらえませんでしたが。
 しかしソウルでの留学生活は、驚き、喜び、楽しい(そして哀しい)ことの連続で、期待以上に多くを学ぶことができました。この頃に出会った方々とは、現在もおつき合いが続いていて、人生の宝物になっています。その後、留学の延長上で、韓国語教師として生きて行くことになるわけですが、若い頃の「英断」(?)がなければ、今の私もありえなかったわけです。
 
 もっとも、韓流ブームのお陰で韓国語を学んだり、韓国に留学したりすることは、今では珍しいことではなくなりました。そのこと自体を嬉しく思いつつも、私は若い皆さんには、必ず自分自身で考え、決断し、行動してほしいと思います。韓国とつき合うことも、ただブームだからとか、推しが韓国人だから、というのではなく、独自の視点や体験によって道を開いてほしいと思います。もし10人がソウルに留学したら、10通りの韓国体験、韓国論があるはずなのです。
 
 もちろん、話は韓国だけに限りません。挫折を怖れず、勇気をもって、人とは違う自分の道に進んで行ってほしいのです。
 日本人はとても協調性に富み、それは美点でもあるのですが、ややもすれば常に周りに合わせることを優先し、自分が何をしたいのか、自分の意見が他人とどう違うのか、その点をはっきりさせることが苦手な面があるようです。だからこそ、皆さんはちょっと勇気をもって、周囲の人たちとは違うことをしてみませんか?
 豊かな個性が束になれば、日本はもっとユニークになって、個性を認め合う多様化が進み、明るい社会を築くと、私は信じています。

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はんどう ちづこ
立教大学卒業。銀行員を経て延世大学語学堂、西江大学大学院修士課程(社会学専攻)修了。東京外国語大学、武蔵大学、国際基督教大学非常勤講師。コリ文語学堂、ひろば語学院、桜美林大学オープンカレッジなどの市民講座や、NHKラジオ・テレビでも講師を務める。日本の市民講座で教える韓国語講師のためのネットワーク「ハンガン(ハングゴガンサ:韓国語講師)ネット」を立ち上げ、世話人代表としてここ数年、大学生訪日団と市民学習者との交流会を開催している。